マイルド・スピード

クルマ社会学ライター・宇並哲也のブログ

F1やル・マンと販売成績は関係ない!? いえいえ、関係大ありです

6月25日のF1アゼルバイジャンGPでようやくポイントを獲得できたものの、マクラーレン・ホンダはもうぶっち切りで最下位。その前週のWECル・マン24時間でもトヨタが残念な結果に終わってる(クルマ好きから見たら超健闘の内容ってのはわかってますが)というのが、日本メーカーの世界トップカテゴリー・モータースポーツ参戦状況。
こうなると心配なのは、あんまりクルマに思い入れのない人(別名:株主)からの「レースで得られるブランドイメージなんて販売成績に関係ないんだからカネの無駄」的バッシングです。

調べてみるとたとえば2015年のF1で、チームへホンダが支払ったパートナー料は300億円弱で確かに安くない。
それで勝ちまくってるならまだしも、負けてるとあれば、メーカーのレース担当者さんは胃の痛い毎日でしょう。

だがしかし! ここでそんな担当者さんに朗報です。今回調べてみたところ、F1やWECで得られるブランドイメージの、業績への関連性は不透明どころかめちゃくちゃあり、というかむしろ、撤退すると販売成績が落ちるというダイレクトな数値が浮かび上がってきたので報告します。
調査したのは欧州におけるトヨタとホンダの販売シェア推移と、WEC/F1参戦の関連性です。場所をヨーロッパにしたのはモータースポーツが文化として根付いている地域と言われているから。また、販売台数ではなくシェアとしたのは、景気変動とは無関係に「メーカーの地位=ブランドがどう変化しているのか」を知るためです。
ではさっそくトヨタを見ていきましょう。ちょうど20年前の1997年からのデータです。

トヨタ欧州シェア推移:モータースポーツ参戦状況(カッコ内は特記事項)
「※」は注目すべき箇所

1997年・2.81%:ル・マン不参加
1998年・3.00%:ル・マン1年ぶりの復帰。以降、ほぼ毎年参戦
1999年・3.13%
2000年・3.60%
2001年・3.58%
2002年・4.27%:F1参戦開始(※シェアが大きく向上)
2003年・4.69%:F1参戦2年目(シェアがさらに向上)
2004年・5.05%(以降、シェアはどんどん拡大)
2005年・5.24%
2006年・5.61%
2007年・5.70%
2008年・5.14%
2009年・4.88%:F1撤退
2010年・4.29%(※大きくシェア下落)
2011年・3.96%:ル・マン参戦中断(モータースポーツ空白期。※直前までの9年で最低のシェアに)
2012年・4.13%:ル・マン参戦再開(再びシェア向上)
2013年・4.16%
2014年・4.07%
2015年・3.94%
2016年・3.97%:現在もル・マン参戦継続中(※安定して高い水準のシェアをキープ)

……どうでしょうか? ちょっと出来過ぎなくらいモータースポーツ参戦とシェアが変動しているのがわかります。
では続いてホンダを見ていきましょう。

●ホンダ欧州シェア推移:モータースポーツ参戦状況(カッコ内は特記事項)
「※」は注目すべき箇所

1997年・1.61%:F1不参加
1998年・1.50%(※シェアがじわじわと下落)
1999年・1.42%
2000年・1.26%:エンジン供給でのF1参戦
2001年・1.07%:シャシー開発にも加わる
2002年・1.25%(シェア回復)
2003年・1.36%(※参戦中のシェアは上昇基調)
2004年・1.62%
2005年・1.70%
2006年・1.79%:ホンダ純ワークス体制に移行(シェアさらに拡大)
2007年・1.99%
2008年・1.83%:F1撤退(※これ以降、シェアは縮小)
2009年・1.79%
2010年・1.45%
2011年・1.18%
2012年・1.12%
2013年・1.14%
2014年・1.02%
2015年・0.93%:F1復帰
2016年・1.06%(※チームとしては低迷もシェア回復)

……ホンダのほうはトヨタよりもさらに明確に販売シェアとモータースポーツがリンクしているという結果が出ました。やっぱりモータースポーツに参戦することでブランドイメージは向上するんですね。

さて、この調査結果を見て「モータースポーツでのブランドイメージが販売成績に関係しているかどうかは証明できないだろう」と言う人もいるでしょう。実は筆者もそう思います。

ただ、企業の持つブランド価値というのは「存在することはわかっているけれど、それが今いくらなのか、また、どの要素がブランドに寄与しているのかはわからない」というのが定説なんです。

だから各企業のブランディング担当はとっても大変なんですよ。たとえばブランド論の第一人者でカリフォルニア大学教授のデービッド・アーカー氏の著作『ブランド論』(ダイヤモンド社)によれば企業のブランドイメージ向上の達成は「よくて困難、下手すると不可能に近い」ほど難しいもの。「そもそもブランド価値というものは絶対的な計測方法がない」からとも付け足しています。

ただ同時に教授は「計測方法がないからといって何もしないとブランド力はそもそも生まれないし、既に持っている場合にはどんどん目減りしていく」とも言ってます。
このため、各メーカーのブランディング担当者は数少ない「数値化できている(と思える)ブランド価値」に頼るわけです。

この、数値化できている例としてはブランド界の格付け機関「インターブランド」「ミルワードブラウン」での世界ランキングなどがありますが、実はこれだってランキングの判断指標は公開していませんから、不透明とも言えます。でも、インターブランド発表の最新結果、2016年の世界トップ4ブランドが「アップル」「グーグル」「コカ・コーラ」「マイクロソフト」の順だと聞いて完全否定する人はいないでしょう。賛否ありつつもミシュランガイドが的確にレストランのブランド価値を表しているのと同様です。
なので今回調べた「モータースポーツ参戦とマーケットシェアの関連性」のような、数値で得られるデータは非常に重要なわけです。

というわけで結論。WEC継続参戦を発表したりWRCに注力するトヨタさんは是非とも自信を持って今後もモータースポーツにエントリーし続けてください。そして戦績不振にあえぐホンダさん、というかホンダF1担当者の皆さんはこのデータを基に、上層部に参戦継続を掛け合ってください。……え、そんなの既にやってる!? そりゃそうですよねー。
(宇並哲也)


■欧州販売台数(Carsalesbase.com)
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